句集『石榴』

祐森水香
句集『石榴』
序文:水内慶太

喜怒哀楽書房

定価:2,300円+税


──シャボン玉からしやぼん玉へ

シャボン玉天球の青分かれゆく

遠景の少女へと吹くしやぼん玉

一句目は未来を見据えたシャボン玉。そして二句目は巻末近くにあり、現在の祐森水香が過去の少女である自分へ吹くしやぼん玉。句集『石榴』は過去から未来が凝縮されたタイムマシンのような俳句作品群である。


──恋に恋するわたし

その人の影だけが濃き野蒜摘み

万緑の一羽となりて君を追ふ

貴女には僕が居ますと泥鰌鍋

告げたきを告げぬ別れや冬の星

黒髪につながつてゐる冬の海


──父恋と父にも似た恋人の歌

白服や風の一番似合ふ人

日の中の柞の匂ひ父の髪

父呼べば風かへりくる秋の暮

ちりちりと父思ふ日の冬林檎

父ほどのひとに恋する冬林檎

インバネス漢に意地のありしころ


──子どもや母への想いと暮らし

花の名の子どもが二人歌がるた

文字に身をやつし廚の胡瓜揉み

薄情と言はれ鬼灯鳴らしけり

筥迫は母の手作り雲の秋

小ぎれいに暮らし小菊を輝かす


──学生時代から茶道に入り、茶道指導も20年になるという

新春や光を芯に振る茶筅

時雨来る金の継目の楽茶碗

高台の荒き梅花皮雪解風

桜散る夜や李朝の雲鶴手

伊賀焼の深き山疵慈悲心鳥


詩や歌、物語作るのが好きだった少女時代。庭に父母によって植えられた石榴の木があり、初めて生った実を口にした記憶を思い浮かべ、懐かしさを忘れないためにも句集名を『石榴』にしたとあとがきにある。祐森作品には少女時代に培った詩性がそのまま羽撃いているようでもある。その描く世界には無駄がなく時間をさえ超えてゆく。

一山の一塔一宇冴返る

舟を得て水はおぼろを深めけり

水伯の森を跳ねゆく春の鹿

大空に百の回廊揚雲雀

青空を水面とおもふ朝ざくら

佇めば人は水なり草いきれ

胸中に未知の海あり葛嵐

来む世には良夜の湖の鳥ならむ

雁書来る冬の銀河の明るさに

冬日向文字のひとつが飛びたがる


(すけもり みか)1999年「遠嶺」に入会、小澤克己に師事。2003年「遠嶺」新人賞受賞。2010年「月の匣」創刊同人。水内慶太に師事。2011年「月の匣」新人賞受賞。2013年月の匣賞受賞。

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