『華もくせい』の紹介
小生の地元昭島市で月1回俳句指導をしている「もくせい句会」(遠山弘美会長)から毎年発行しているアンソロジー『華もくせい』38集の中から優秀作を紹介をさせていただきます。(馬場龍吉抄出)
清盛の栄華をしのぶ魚島よ 相澤靖子
緑さす天童駒の王と玉
何人も詩人となせり鰯雲
三盆のまろしき京の切山椒 大関茂男
人の世のたのしきことのみなおぼろ
新婚です螢袋が新居です
昼顔や百の死に顔咲きそろひ
一合の酒そそがるる帰り花
これやこの老いても女初鏡 加藤克子
福耳の老いの空耳田螺鳴く
まくなぎや棚田天まで水鏡
天網の結び目ほどけ涼新た
冬とんぼ薄紙ほどの影を曳く
相触るる切山椒の萌黄色 川井洋子
佐保姫のやうやう覚めし波の音
逝くときは誰がゐるらむ花おぼろ
五月来るこころに鈴を鳴らし来る
病む友へ水引草の風の息
繋留の八百の帆柱風光る 笠井ケイ子
星灯し田螺鳴く夜の山家かな
三婆が下山に泣きし春の山
睡蓮の早暁の雨紅させる 樫八重洋子
オカリナは天草を干す風となる
雲海や一万尺の暁月夜
転げ出て火を噴く達磨どんどやき 小松清子
水音の穏やかなりし大賀蓮
のうぜんに高きを貸してゐる一樹
煌めくを吾子の星とも星月夜
源流の一滴大河に稲の花
薄氷は万札みたいあれみたい 小林 繁
禿(ちび)と禿(はげ)おなじ字なのね春うらら
朝ぼらけ徘徊くせの竹婦人
草の実や土俵に芽吹き大銀杏
冬服の去年の小銭よ今日は
ガランスの空覚ましつつ初日かな 小林かず晴
涙腺のかくも脆きや初茜
深閑のカンの音して花盛
ベランダを夢のつづきの揚羽蝶
星月夜流氓の民の河渡る
極上のパンにバターを春立てり 高浜美音子
まくなぎにヘルメットかぶる双児かな
ストローを行つたり来たりソーダー水
ふくらみて光るしづくや雁渡る
陽をあびて大笑ひする福寿草 竹田智恵子
佐保姫を待ち焦れたるランドセル
旅立ちを待てる綿毛に春の風
葉隠れに姿なけれどほととぎす
口ぐせのこれが最後と夏登山
田螺鳴く瑞穂の国の夕間暮 田原洋子
亀鳴くを聞きたく木橋去りがたし
兜虫天王山にさしかかる
深川の芭蕉に風の去来かな
ふたたびの風にこぼるる名草の実
嫁が君鏡に別のわたくしが 遠山弘美
佐保姫の母なる山を出づる声
お守りの鈴のチリンと小鳥引く
驚いて田螺鳴くほどなる美人
青胡桃脳のよろこぶ参考書
しがらみの解けざるままに雪残る 西崎 弘
みちのくの災禍残寒涸れなみだ
破れ芭蕉人それぞれの一家言
枯野ゆくらりるれろれつちとあやし
両膝に二才四才三十三才
初富士の風に崩るゝ水鏡 西崎ひさ江
佐保姫の眠りをさます垂水かな
光琳の色せせらぎの杜若
まくなぎやまぶたに髪のかかりをり
子かまきり乗りて葉の色貰ひたる
小糠雨山をゆすれば山笑ふ 平原千枝子
魚島や二十歳で知りし鯛茶づけ
賀茂川の風も一品簟
水澄みて魚に目のあり影のあり
枯野原鬼ごつこには広すぎて
大師までどの径ゆくも恵方かな 村田吉雄
初御空飛ばしたくなる鶴を折る
初旅は菜の花の咲く岬まで
潮風を吐かせてたたむ鯉のぼり
手の中に包みたくなる寒の星
田螺鳴くとも思へぬが夕間暮 山田庫夫
サクランボ地獄の話子にしてやる
遍照金剛まくなぎが追ひ縋る
秋霖や茶柱ふたつ横たはる
鬼灯の袋の中は姉の笛
佐保姫の寝姿見たり筑波山 横田惠子
泡一つ吐きて能事を終ふ田螺
鯉のぼりだらりと夜の明けにけり
靴底に付きて千里の草の絮
感嘆符一つ残して三十三才
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