句集『また明日』
うさぴょん あっいや
太田うさぎ句集『また明日』
定価:2300円+税
四六版/株式会社 左右社
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遠泳のこのまま都まで行くか 太田うさぎ
んん、これはそのまま太田うさぎを現している句のようでもある。
うさぎさんとは長いつきあいであるようでもあるが、実は集中して句会を共にしているわけではないので彼女の核心を知りぬいているわけでもない。まぁそう簡単に人を知りうるはずがないわけだが。句集の前半にはぼくの知らない世界があった。
水無月をがあぜのやうに吹かれをり 太田うさぎ
行く秋の水は捩れて水のなか
きみ行けばさくさくと鳴る秋草よ
鯉に落ちたり白鳥の飲み零し
手の中に石鹼減らす恋の秋
霞みませう手に手を取りて目を合わせ
──かなりか細く繊細な人だった。当たり前だが、ぼくの全然知らない恋があったり。
美人の湯出てしばらくを裸なり
うしろより浪が浪抱く西鶴忌
立ちざまに足の触れあふ十三夜
小田原に広げる夜着は鶴の柄
いま少し一緒に東風に吹かれゐむ
歳月の流れてゐたる裸かな
──知らない裸があったり。
松手入空を立派にしてしまふ
風はまた風をむすんでつくづくし
緋の白の八重の一重の寒牡丹
雛罌栗のうはべに残る雨の粒
池の面に松葉の刺さる油照
雨傘の黒の充実木枯忌
──実は写生派だったり。
六句目は八田木枯さんの最晩年に師事していた忌日の句だと思うが。
商標の輝いてゐるバナナかな
初燕スーツケースに尻預け
枯蟷螂ひと恋ふことのこんがりと
すててこやお城に赤い日が沈む
鼻が邪魔ソフトクリーム舐めるたび
ラグビーの主に尻見てゐる感じ
──のように諧謔の効いた句も多く読者を楽しませてくれる。
この丘の見ゆる限りの春惜しむ
──句集の揚句である。宇宙すべてに、すべての人に感謝の挨拶句。
とまぁ、俳域の広さもグンバツ。抜群!
遠泳から戻って次回句集に更なる世界を見せていただきたいものだ。
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