句集『式日(しきじつ)』
安里琉太 句集『式日(しきじつ)』
2020年2月29日発行
定価:1,800円+税株式会社左右社
時間の「枯れ」を見せてくれた句集
著者は4月26日 第679号 『週刊俳句』にも
10句寄稿しているのでぜひチェックを!
ひいふつとゆふまぐれくる氷かな
句集の巻頭句である。ひいふ……ときたらふうだろう。
を見事に裏切って……ふつとゆふまぐれくる
そして氷かな……に着地する。昼でもなく夜でもなく夕暮れに。これ以降こういうあざとい(安里=老人的駄洒落)俳句が並ぶのかと思っていると、これをまた見事に裏切った写生句が並んで行く。
芹の根をひきたるみづの昏さかな 安里琉太
流れゆく芥や種や田螺鳴く
うつすらと濡れて粽の笹の嵩
筒鳥や芥かがよふ沼の面
露草のひといろに雨濃うなりぬ
写生句に胸を撫で下ろす頃には
陶枕の雲の冷えともつかぬもの
むらさきにほそる人かげ豆御飯
日本の元気なころの水着かな
ばつたんこ飲めない水と書いてある
夏の川桃が流れて来はせぬか
なつかしき雨を見てをる麦茶かな
ゆかりなき秋の神輿とすこし行く
きらきらと日焼の雨を帰りけり
遅れくることの涼しく指栞
ずつと雨ずつと変はらぬ蔦の窓
この句集で注目すべきは栞で鳥居真里子氏が触れられているように「枯れ」であろう。季節の「枯れ」はもちろん、重要なのは時間軸の「枯れ」を表現している点でもある。
樹が枯れてゐる真つ白な家の上
式日や実石榴に日の枯れてをる
コスモスの中の蛇口が枯れてゐる
くちなはの来し方に日の枯れてゐる
永き日の椅子ありあまる中にをり
校舎か会社か式典の会場か。おそらく俳壇であろう。さらにあざとく新しい写生句の世界を切り開いて見せてもらいたいものだ。
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