百鳥同人作品鑑賞/4月号より
「百鳥」同人作品欄の作品鑑賞
4月号〜6月号をお送りいたします。馬場龍吉
白鳥の羽搏き故郷思ふらし 大串 章
雪嶺からはじまる白鳥の連作十二句はすべて白の世界で綴られれている。白鳥の羽搏きは求愛も含めて想いの表現だろう。作者は故郷を偲んでの羽搏きと見た。十二句目〈野遊びの果て灯台に登りけり〉には白は無いが灯台=白が隠されているのだ。春への期待感が白い世界に眩しい。
きさらぎのめくれて白き遠渚 櫛原希伊子
波頭の繰り返す春の海ではあるが、寒さを秘めたきさらぎの海でなければならない。新型コロナ禍に世界が振り回されている昨今だが、一刻も早い終息と平穏な毎日を願いたい。どこまでもいつまでも続く長汀のように平和に。
出発ロビー到着ロビー皆マスク 原田 暹
入口出口など反対語から〈しぐるるや駅に西口東口 安住敦〉を思い浮かべるが、空港ロビーがいかにも現代的な景でしかも「不要不急」の外出を控える「マスク」で今を詠み込んだ俳句としてもタイムリーな佳句となっている。
風花や陶土轆轤を起ちあがる 久保田哲子
外に風花の舞う寒さのなか、陶房では轆轤を回す音。水も冷たいが陶土は指に貼り付く分もっと冷たい。風花の白さと軽さに対し陶土の重さを操る指に情熱が見える。
平成と令和の暦去年今年 田中清之
まさにこの年でしか作れない俳句。作者は昭和の生れだろうから三代の歴史を生きてきている。年毎に替えてゆく暦だが、今年はとくに元号の変遷があり感慨深い。
初市に買ふフライパン揺すりをり 徳永 真弓
松の内後の初めての買い物で目敏く見つけたフライパンだが、条件反射的に揺すってみる。片手にかかる重量は料理人には大切な意義がある。既に日常は始まっている。
大年の花弁のやうな骨拾ふ 安達 輝美
年末年始、季節の変り目には体調を崩す方が多い。この句には「花弁のやうな」の措辞に、身近で大切な人を失った悼むこころが見事に描かれている。
洛中の真ん中に御所初雀 池田 華甲
京都市中の真ん中に敢えて作られた御所。いやいやそうではなかろう。御所を中心に栄えていったのが京都だろう。出入りする雀にも由緒正しき血統があるようだ。
七種粥なかのどれかがほろ苦く 岡野かんな
刻まれた七種のどれにほろ苦さを感じたのか。しみじみとした深読みを誘う作品だ。鍋のなかの七種が家族とすれば、ちょっと問題ありの家族がいるのも有りうることだ。
茶筅大きく廻して寒を送りけり 小野 元夫
茶事に疎いので詳しくはわからないのだが茶立ての最後に懇に茶筅を回して仕上げることなのだろう。梅を見ながらの「寒」を送る一服となったことであろう。
風止んでかもめが飛んで寒土用 神谷 瑛子
一句に動詞は一つとは良く言われることで、それではこの句はどうなんだろう。この句は韻のよろしさで動詞は邪魔になっていない。硬い響きのka音だが、纏めるよりも早く一気にあふれ出た一句なのではないだろうか。
初霞巌流島へ出航す 高島 光子
初春の霞の島を目指すのに宮本武蔵の気分を持ってきたところが手柄。俳人であるからして、上陸したら決闘するかのようにどんな俳句を作ろうかと思いを巡らしたことだろう。巌流島という固有名詞の効いた作品である。
雪を描く木の影草の影を入れ 中武 律子
作者は水彩画とか絵心のある方なのだろう。木の影だけでは冬景色なのだが、草の影を詠むことで春先の雪景色を描いている。雪に透ける淡墨をすっと影として詠んだ。
初市や漁協の壁に潮時表 広田 智恵
潮の干満を朝汐(ちょうせき)というらしい。その時刻を知らせるのが潮時表。獲れたての初市に臨んだ作者の目に映った潮時表に海の匂いが広がる。
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