『柔き棘』
柏柳明子 第2句集『柔き棘』
「炎環」同人「豆の木」「蘖通信」
現代俳句教会会員
定価:1800円+税 四六版/紅書房
ネット限定販売
緋のダリアジャズシンガーの揮発する
柏柳明子 第1句集『揮発』から
抱きしめられてセーターは柔き棘
柏柳明子 第2句集 表題句へ 第1句集の自身を取り巻く社会的な視線から〈梨剥いて360°ひとり〉、身近なさまざまな題材から自分を見直しに及んだ句集ともいえる。そこからはまた次の飛躍のためであろうことが伺える。つまりホップ、ステップ、ジャンプと柏柳明子はどう変わってゆくのか、次の句集への充電句集のようでたのしみが広がる。
学校のない国へゆく雁の列
雨音の引つかかりたる古暦
少年のなかの少女よ水中花
鋏ならきれいに切れる冬の空
数へ日のしつぽのやうな栞紐
佐保姫の体温計の微熱かな
ひらかない抽斗ひとつ流氷期
台風圏四角くたたむ明日の服
餡蜜に秘書のやうなる求肥かな
へうたんの恥づかしさうに太りけり
──独自の視野の広がる作品が際立ったり
剝くほどに母うつくしくなる林檎
手花火の互ひの顔を照らしあふ
肉食の祖母の遊べる花野かな
藤房や声の大きな三世代
ポンポンダリア要約すれば君が好き
── 一族が友情出演してきたり
一着の飛沫の強きプールかな
箱庭に小さな雨が降つてゐる
踊子の闇をひらいてゆく躰
いつせいに振り向かれたり曼珠沙華
八千草へ手紙のやうな風の来し
──もちろん、写生句も欠かせない
抱きしめられてセーターは柔き棘
柔らかく優しそうに見えるものには安易に近寄るなという戒めでもあるようだが、危うきものに興味が沸くのも人の性。俳人であればなおのこと。そういう視点にこそ俳句の未来がある。
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